マルコムは日本の会社に勤めるために、３ヵ月前にアメリカから日本へ来た。

マルコムは日本の会社に勤めるために、３ヵ月前にアメリカから日本へ来た。日本の住宅事情は大変だと聞いていたので心配していたが、幸い会社の持っているアパートが借りられたので、早速そこに住むことになった。そのアパートは新しい 10 階建てで、マルコムの部屋は一番上の 10 階にある。朝出かける時、エレベーターに乗っている
と、ほかの人たちがよく乗ってくる。そんな時、マルコムは「おはようございます」と言うのだが、初めての人たちは、びっくりしたような顔をして何も言わない。マルコムは、初めのうち、自分がアメリカ人なので、日本人がびっくりして何も言わないのかと思っていた。しかし、よく見ていると、日本人同士でも、知らない人同士は何も言わないら
しいことに気づいた。しかも、知っている人同士は、「おはようございます」と言っておじきをしたり、いろいろ笑いながら話したりするということも分かってきた。マルコムは、ある時、同じ階に住んでいる伊藤いとうさんの奥さんが重いゴミを出そうとして困っているのを手伝ってあげたことがある。すると、その時まで全然笑いもしなかったその奥さんが、それからはマルコムに会う度にニコニコして、｢いいお天気ですねえ｣などと言うようになった。会社の日本人同 僚
どうりょうたちにそのことを話すと、みんな「そうだ
ね。僕たちも知らない人にはあいさつしないなあ」と答えた。マルコムは、「アメリカなら同じアパートの人がエレベーターに乗ってきたら、知らない人にでも“Hi!”ぐらいは言うと思うけどなあ」と心の中で思った。